木曜日, 3月 01, 2007

神の交渉術 〜第一章〜

 2時間ほどで”神の交渉術”を読了。知っている話ばかりだったので意外な発見は無かったのだが、こう書き連ねるととんでもない奴(本当に最悪の人間)だと言うのがひしひしと伝わってくる本である。交渉の当事者や部下になってしまった人間にとってまさに悪魔と化すのがJobsなのである。

 どれぐらい扱い辛い相手であるかを知るには例を上げるのが一番なのでいくつか書いてみたい。

Apple vs Apple
Apple Computerは創業時からビートルズのAppleと同じ名称と類似する商標(リンゴのロゴ)で揉めていたが、どのような形で決着を付けたのかを書いてみたい。
1981年:前年に株式を公開して大企業の仲間入りを果たしたAppleは全世界でAppleの商標を使えるようにビートルズのAppleと交渉(当時の社長が担当)。音楽業界には進出しないと言う条件を提示し10万ドルで交渉成立。
1991年:全機種にCD-ROMを搭載したMacintoshを発売した為に再びビートルズのAppleに訴えられる。この時はまだJobsが復帰していなかったせいもあるが、この時は音楽業界に参入する時にはAppleの名称とリンゴのロゴは使わないと言う条件で2500万ドルで交渉成立。
2006年:Appleはメジャーレーベル全てと有力ミュージシャンに曲を提供させる形でiTunes music storeをスタート。当然ビートルズのAppleは納得がいかずに再度提訴。イギリスでの裁判で音楽ダウンロードは音楽を流している訳ではなく、データの転送に過ぎないという判決を得る。通常の会社はここで終わりなのだが、それでも納得のいかないビートルズのAppleは、もう一度訴える事にした。ここでJobsが本領を発揮、訴えた側が商標を使わせてもらう(ビートルズのAppleが、JobsのAppleに許しを乞うて商標を使える)立場になってしまったのだ。こんな交渉は他の人間には出来ないマジック(恐らく黒魔術だ)なのだ。いくらお金を使ったか不明だが、もしかしたら一銭も使っていないかも知れない。

Pixar vs Disney
さてお次は命の恩人に対してどういう仕打ちをするかと言う話である。ここで出てくるのはメディア界の超大物なのだがJobsにとってはまるで赤子なのである。
最初の契約:Macユーザーにとっては忘れる事の出来ない嫌な年なのだが、Pixarにとってはバラ色の未来が始った素晴らしい年だった。あとわずかで命も尽きる状態にあったPixarは、製作費、宣伝費と配給の費用はDisney持ちで映画を制作すると言う契約で資金を得ることに成功する。Pixarへの実入りは興行益の3割ディズニーは残りとキャラクタやDVDから得られる収入全て。決して悪くない話だが、映画が公開されるや契約期間の残っている契約書を破り捨てたのである。
最初の改定:まだ一作しか出来上がっていないのに残りの2作品の製作費を自己負担する代わりに、全てをディズニーと対等にすると言う契約を迫る(収益を折半だ)。さすがのディズニーもこの無茶な要求には応じられないと突っぱねると、すぐさま他社との接触を開始する(ように見表立ってわざと振舞ったのだ)。結局新しい条件を天下のディズニーが飲む結果で交渉成立。しかし、そんなことで大人しくなるJobsではない。ファインディング・ニモが完成すると公開もされていないのに、この契約さえ破棄しろと迫ったのだ。
次の改定:次の条件はもっととんでもないものだ。Pixarの作品の所有権は渡さないが、は良九件だけは独占的にディズニーに与える(つまり全ての収益はPixarの儲けになる)。要するに配給とプロモーションに対してフィーを払う条件ならば契約を更新すると言うのだ。当然、ディズニーの帝王アイズナーがそんなことを認めるはずはない。それでどうなったかと言えば、アイズナーはクビになり、Jobsは、74億ドル(個人分は37億ドル)でPixarをディズニーに売渡し(実際はディズニーのアニメ部門は消え去りPixarがディズニーのアニメ部門になったのだ)、筆頭株主になってしまった。

 あなたはこんなことが本当に出来ると信じられますか。他の会社では絶対あり得ない話です。恐らくJobsを知らない人が聴いたら出来の悪い与太話だと思うはずだ。

結論:こういうのを本当の悪魔の所業と言うのである。

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