土曜日, 6月 17, 2023

Vision Proを買ってはいけない 〜10の理由〜

自分の語彙力では全てを伝えきることが出来ないと多くのテクニカルライターの方々を窮地に追い込んだApple Vision Pro。涙を流すほど感動したと多くの体験者が語っているのがVision Proのカメラで撮影された3D写真と動画。他のVRヘッドセットのパススルー映像がどうかは知らないがVision Proのパススルーは奥行きを正しく判断できる3D映像(だから、Vision Proを付けたままで自由に歩くことも物を取ることも出来る)だ。Apple命名の「空間コンピュータ」にならって「空間ピクチャー」、「空間ムービー」と呼ぶべきかも知れない。と、言うわけですこぶる評価の良いVision Proだが買ってはいけない理由も沢山ある。今回はその辺りを書き並べてみたい。


買ってはいけない理由

その1:3,500ドルもする

世の中にはリーズナブルにVRを楽しめるQuest 2が既にあり秋になればそれ以上の能力を持ったQuest 3が控えていると言うのに、何で好き好んでわざわざ3,500ドルも出してApple製品を買わなければいけないと言うのだ。全然人気のないQuest Proも既に存在する。メタバースという閉じた仮想のソーシャル世界に閉じこもるためだけならば3,500ドルもするVision Proを買う必要などない。実空間と仮想空間の融合のためのツールを必要としているのでない限り真っ先に買ってはいけないのだ。


その2:来年まで出ない

世の中には3,500ドルもするのにテクニカルライターの美辞麗句に踊らされて、それでも欲しいと言う人もいるようだ。どんなに欲しくても7月にVision Proの開発キットを手に入れられるのはアプリの開発者だけ。勿論、開発者に金を積んで横取りするという手もあると思えるがAppleシリコンMacの開発キットの時と同じように製品が出る頃にはAppleに返却しなければいけなくなるだろう。それに、Appleの正式発表もないのにまるでその仕様の製品がリリースされるのだと言わんばかりの噂が先行するAppleの世界。正式に一般販売が開始される頃には、次の次辺りの空間コンピュータの話題で持ちきりになっていて初号機の魅力など消し飛んでいるに違いない。Vision Proに使われているSONY製のマイクロOLEDの生産能力も限られ供給量は需要の半分も満たせない恐れもある。まずあり得ない話だが正式販売開始までに他からもっと良い製品が出てこないと断言できるわけではない。正直な話、Vision Proは欲しくても手に入らない製品になるに決まっているのだ。


その3:メガネ型じゃなかった

ここまで待たせたのだから当然ゴーグルサイズではなく普通のメガネと見紛うような軽量モデルになると思っていた人も多いはず。それなのに蓋を開けてみたら数多の既存モデルとさして変わらない大きさと重さのヘッドセット。デザインや部材は他社製よりも奢ったモノなのは一目瞭然だが、「これでいいのか」と言う嘆きが聞こえてきそうだ。例えそれがApple製だろうとMetaやMicrosoftのものであろうと被り物なのは紛れもない事実。Appleならではのオシャレなメガネサイズの「空間コンピュータ」になるまで買ってはいけないのだ。


その4:メガネでは使えない

恐らくアイトラッキングを正確に行うために頂間距離がまちまちになるメガネでは具合が悪いか、ホールドするポジションからメガネフレームが邪魔になってかけられないからなのだろうが、視力矯正が必要な人はコンタクトレンズかVision Pro専用のZeiss製のインサートレンズを購入する必要がある。コンタクトを使用できない人は必然的にVision Proを使うためだけに、3,500ドルに加えて幾許かの費用を上乗せしなければいけない。他社の眼鏡用レンズで置き換え可能なのかはモノが出てこないとはっきりしないが、どちらにせよ普通のメガネは使えないのでそこを考えずに慌てて買ったりしてはいけないのだ。


その5:バッテリーが内蔵ではない

PowerbookまでのApple製品はバッテリーは交換可能だったが、いつからかApple製品はバッテリー交換出来ないことが正義とされて来た。iPhone、iPad、Apple Watch、AirPodsと一つとしてバッテリー交換可能なデバイスは存在しない。それなのに今回発表されたVision Proはしれーっとバッテリーが外付けな上に一個のバッテリーでは僅か2時間しか動作しない。バッテリーを外付けにしたため他社製品よりも軽くなったと言い張っているが、どうやら動作させたままバッテリー交換さえ出来ないらしい(本当かどうかは出てみなければ分からないが)。iPhoneと同じくらいの重量のバッテリーで2時間という事は内蔵ならもっとわずかな時間しか使えないのは明らか。USB Type-Cで外部電源から直接給電も可能だがそれでは自由に動き回ることはできない。最悪、外付けでも構わないがせめて一つのバッテリーで半日くらい使えるようになるまで買ってはいけないのだ。


その6:後出しジャンケンは卑怯

Google Glassは問題外にしてもMicrosoft、Oculus(現Meta)、Samsung、HTCなど多くのメーカーが手を出し未だにQuestシリーズ以外に成功と言えるほどの台数が世の中に出たことのないVRヘッドセット界隈。現状SONYのマイクロOLEDの供給数に左右される可能性が高いようだがLGなどから要求する機能水準を満たすものが提供されれば、あっという間にQuest以外の累積販売数を…後出しと言うよりもAppleの製品に対する要求水準が他社とは比べ物にならない位に高いから製品リリースが遅いと言う意見もあるが(スマートウォッチの時のようにAppleから出るとの噂に踊らされて専用OSも無いのに出来損ないを出したSamsungのような例もある)、他の失敗を嘲笑うかのような完成度の高い製品を出してくるのは卑怯。他社製品の失敗から学んだのではなく何年も前から独自に研究開発した結果だと言われても、とにかく他社よりも1秒でも早く出すことがイノベーションだと信じている連中には通用しない。Apple信者以外は買ってはいけないのだ。


その7:初号機だ

Apple Watchなど新しいカテゴリーの初代モデルは、製品発表時には必ずしも方向性が明確ではなく仕様も完全に固まっているわけではない。当然、初代の方が初期不良に見舞われる可能性も高くなる。初代には誰も持っていないのでしばらくの間自慢出来る以上の価値はないに等しい(特に今回は高価な上に台数も限られ希少性が高くなりそうだ)。今回のVision Proは、開発キットの要素も多分に含むため開発者ではない素人が手を出すべき製品ではない。搭載されているセンサーや表示系などは現在手に入る中でも最高品質のものだが、次期モデルが同様のスペックなら当然価格はもっとリーズナブルになる上に枯れた品質になるに決まっている。初代のApple Watchのようにあっという間にOSのアップデートから外れてしまうのも初号機ならではの悲哀。長く使いたいなら初号機を買ってはいけないのだ。


その8:ハンドコントローラーがない

アイトラッキングとジェスチャーだけで誰でも数分で使いこなせるようになるなんて俄かには信じられない(体験者が皆そう言っているので恐らく疑う方が間違っているのだろうが)。その上、カメラが捉えられる特定の位置まで腕を持ち上げて大きな手振りが必要な上に認識ミスが当たり前のため他社では必須だった専用のハンドコントローラーそのものが存在しない。高性能なカメラ(Depthカメラやアイトラッキングカメラなど)とセンサーを搭載したVision Proではゾンビのように腕を持ち上げ続ける必要がないから本体のバッテリーが切れる前に腕の筋肉の方が参ってしまうこともない。他社のヘッドセットではあり得ない仕様なのだ。数多の先達をバカにしてセンシング技術をひけらかすような製品を買ってはいけないのだ。


その9:Quest Proを持ってる

謳い文句とは裏腹に中途時半端にコストを削ったせいか最初の値付けでは買ってもらえなかったQuest Pro。結局あっという間にコスト割れだろうなと思われる価格に改定して投げ売り開始。挙げ句の果てにほぼ同じ機能を持ったQuest 3が半額以下で販売されるという始末。価格が全然違うと言われても同じProを冠しながら、その機能の違いは歴然。自分の望んでいたものはAppleの目指しているものとは違うんだと自分の過ちを棚に上げて自分自身を納得させるためにもVision Proを買うわけにはいかないのだ。


その10:KeynoteでAIと一度も言わなかった

ここ最近はGoogle、Microsoftとキーノートと言えば100回以上言わないとムショ送りになるのではないかと思えるくらいに連発されていたAIと言う単語。そしてジェネレーティブAI以外はAIじゃないと言う空気感。MetaもメタバースはジェネレーティブAIあってのものと。そんな一番ホットなAIと言うバズワードをWWDC 23のKeynoteの中で一切口にすることのなかったApple。新しいOSの随所にデバイス内だけで処理されるAIをシステムレベルで載せているVision Proはまさに音声認識とセンシングで動作する機械学習の塊のような空間コンピューティング端末。AIは手段の一つであって目的ではなくVision Proは単なるAIを活用したVRヘッドセットではないよと言わんばかりの高慢な態度を改めない限りApple製品を買ってはいけないのだ。


結論:他社の同じような価格帯のVRツールに注ぎ込むほどお金に余裕があるのならば未来のコンピューティングの先取りをするのは良い選択かも知れない。Vision Proは最先端のセンサーを載せただけではなくvisionOSのUIの完成度は現段階で他社を数年以上引き離すレベルに到達している。SamsungはVision Proの発表を受けてヘッドセットの開発計画を大幅に変更するようだと噂されているが、計画を練っているうちにAppleは次期モデルを出荷するかも知れない。Vision Proを買う買わないの判断は結局その価格に尽きる気がする。